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ドイツへワインとワイナリーの研修を終えて

2009年の リースリング バイザグラスキャンペーンでは、優秀賞を獲得した2店に、ドイツ研修ツアーが贈られました。
★ WWワールドワインバー&ビストロ (東京都千代田区)
★ 一宝 天寅 (大阪府大阪市)

2010年4月23日(金)~28日(水)に実施されたツアーに参加された『天寅』の関さんから、ツアーのレポートと写真が届きましたので紹介します。
ドイツへワインとワイナリーの研修を終えて
『一宝 天寅』  関 順 氏


アイスランドの火山の大噴火があった影響か飛行機は予想通り満席で、ヨーロッパは遠いとは聞いていたものの、フランクフルト空港に到着したときはすでに随分と疲れていた。
とはいえ、初めてのドイツで、しかも初めてのワイナリー研修で(個人的なワイナリーへの訪問はあるけれども・・・)、緊張感を伴うワクワクした気持ちでホテルへのバスへ乗り込んだ。

ホテルでのミーティングの場所には多くのヨーロッパの若いソムリエたちが自信に満ちた笑顔で談笑していた。 50人ほどはいただろうか。アジア人は我々日本人二人をいれても3人だけで、もう一人の彼はカナダで育った台湾人でロンドンで活躍中とのことであった。とにかく、少し気後れしそうな自分を叱咤せずには笑顔を保つのは難しかった。

歴史的な醸造所というクロスターエーベルバッハは宿舎となったウィズバーデンのホテルから車で約30分ほどだった。空港からホテルへ向かう車中でも感じたことではあったが、ドイツという国はいかに自然が多く残る美しい国であることにまず驚いた。醸造所から畑を通してライン河を望むと、そこには大きな近代的建物は見当たらず美しい夕日が時間の流れをゆっくりとしたものにしていた。少しオーバーな表現になるが数百年前からのそこでの人々の営みが感じられるようでさえあった。 

しかし、醸造所内は一転して近代的な醸造設備がならび、コンクリートの打ちっぱなしの建物は近代ドイツ的な無駄のない機能美を感じた。地下に配置された圧搾場とステンレスの大型タンクは集荷されたぶどうが重力に逆らわずに運び込まれる為のもの、ぶどうにストレスがかからないということであった。なんとも贅沢な造りに見えた。

翌日は朝からガイゼンハイム醸造大学でのドイツワインの今後のマーケティングのレクチャーで、ヘンドリック・トーマ氏(ハンブルグのマスターソムリエ)による数時間にわたるティスティング・セミナーが行われた。 マーケティング戦略の講義は過去におけるドイツワインの「輸出戦略の失敗」(甘口カジュアルワインへの偏り)と「ワインや産地の名前の難しさ」に対しての解についてのものであった。 

内容的には特に新しさを感じなかったが、ドイツ人のコミュニケーションのうまさとプレゼンテーションのうまさは意外なほどで楽しい講義であった。(もっと生真面目な内容のものを覚悟していたのだが、さすがEU、コミュニケーションに長けていた)トーマ氏の進行は痛快で見事だったと思う。まず最初の8種類は「産地ごと」というタイトルではあったものの、ピノグリ、シャルドネを含めた非常にレベルの高い白ワインを紹介するものであった。クリーンでスタイリッシュなワインも見られ、和食や日本人の好みに合いそうなバランスのいいワインが多く紹介された。 

第2部は「リースリングの熟成のポテンシャル」についてで、一番古いものは1946年のシュペートレーゼ・トロッケンがテイスティングに提供された。

第3部は「赤ワイン」をテーマのものであったが、ここでもドイツの赤ワインのレベルの高さを再確認 することが出来た。あくまでヨーロッパ的で、個人的には少しクラシックなタイプのボーヌのワインを 連想させるようなものが多く、好印象であった。ここでもやはり日本人の嗜好に合うであろうと感じた (特に和食とのマッチングについて)

翌25日はVDPの見本市に参加した。 
ライン河のほとりに建つ近代的な建物はウィズバーデンの街並とは少し違ったもので、「近代的な国・ドイツ」を感じるものだった。早速にも目当てのラッツェンベルガーのブースを訪ね、リースリングのカビネットからその日のテイスティングを開始した。リースリング主体にティスティングをし続けたこともあり、ひとつずつの蔵の個性を自力で見極めるのは困難であった。しかし、いずれの蔵も商品のレベルは高く、モーゼルの生産者たちは繊細なバランスの上質なリースリングを出品していたし、ラインガウはモダンな辛口リースリングを多く出品しており、非常にいい経験をすることが出来た。

その後、ラインガウやアールの生産者のブースを訪ねると、ボディに厚みのある長期熟成型のシュペートブルグンダーからミディアムボディーながらとてもエレガントなものまで試飲できた。赤ワインの生産者たちをフレンドリーで親切であったという記憶する一方で、彼らは自信味満ち溢れ、また消費者に迎合する雰囲気は少なく、「おれたちは信念に基づいてワインを造っているだけだ」とでも言っているかのような印象であったように感じた。前々日に訪れたクロスターエーベルバッハの醸造所の人たちとは少し違う。「人間臭さ」を感じたといえば言い過ぎだろうか。

*
翌26日は待望のゲオルグ・ブロイヤー訪問だった。 バスを途中で降り、古い町並みを抜けて、小さなおもちゃのようなゴンドラに乗ってリューデスハイムの丘の上まで行くことになった。幸いにも好天に恵まれ、ゴンドラから見るぶどう畑と古い町並みの風景は素晴らしいものだった。

ゴンドラの終点から10分ほど歩いてブロイヤーの畑まで行くのだが、道の途中でデンマークのソムリエが道端の木の葉っぱをちぎって食べだした。背は190センチくらい、スキンヘッドの男性である。彼は私にもその葉っぱをさしだし、食べてみろとすすめた。木の名前は記憶出来なかったが、彼曰く、その葉は春のその短い期間のものだけはサラダに使えるのだという。

その後もぶどう畑の中のハーブを取っては私にすすめてくれた。 恥ずかしながら大阪生まれ大阪育ちの私は雑草とハーブの違いが見極められず、食に携わる者として気恥ずかしい感じがした。ブロイヤーの畑はほぼビオロジックで行われているという事だった。

根拠もなく「ブロイヤーは大きなワイナリー」と思いこんでいた私は、手入れの行き届いたぶどう畑やとても近代的とはよべない醸造所をみて、すこし驚いた。地下セラーもあまり大ぶりなものではなかったが、あの洗練された味わいの辛口リースリングが醸されるのかと思うと驚きはさらに大きなものとなった。ティスティングを通してトレサ・ブロイヤーさんの話を聞くこと出来たが、地域に密着しながらも常に革新的に、かつ将来にむけて全て新しいの可能性に挑戦する、ワイナリーとして、醸造家としての姿勢に尊敬の念を覚えた。
今後は考え方を変えてブロイヤーを楽しもうと思った。

ブロイヤーでお昼ご飯を御馳走になったあと、シュロスヨハネスベルグを経て、
カウターというワイナリーを訪れた。 赤い皮のリースリングを造っている変わり種と事前に知らされいたが、小さなそのワイナリーに入っていくと、まさに風変わりなウエルカム・ゼクトでもてなしを受けた。
グラスの上にホワイトチョコレートが乗せられて供出されたそのゼクトはチョコレートリキュールを添加したゼクトだった。私自身のコメントや他の参加者のコメントはひかえるが、みな十分大人で、興味深い表情を崩さなかったのはさすがヨーロッパの文化性だと感じた。

その日の夕食はカウタ―氏のワインのティスティングと同時進行で用意して頂いたが、なんと15種類 にも上るワインで、私の技量の範囲を超えてしまったいた。思い出せるのは赤のリースリング は、ゲオルグブロイヤーの「ジュー」を彷彿させるものであったことと、最後に出てきたカベルネ ソーヴィニオンは深みや凝縮感に欠けたもので、その前に飲んだシュペートブルグンダーに比べる と満足感にかけるものであったことである。

翌27日は最終日ということもあり、カウタ―氏訪問のあとは10名くらいでホテルのバーで打上げ(?)をすることになった。前日から3班に分かれていたこともあり、我々のグループは 北欧諸国からのメンバーが10名程度、スペイン人2人、我々日本人という構成だったが、みんな 明るく社交的であったので楽しく、興味深い会話が楽しめた。

先ほどのデンマーク人が嬉しそうに サンブッカとアマレットを私のためにオーダーしてくれた。 丸4日間リースリング漬けの体には 初体験のサンブッカとアマレットは少々大変な飲み物ではあったが、時間をかけながらも最後まで飲みほした。 彼らEUで活躍中のソムリエたちとの短い交流で感じたのは、多少の個人差はあるものの、総じて彼らのレベルは高く、我々はかなり遅れているのだということだった。これは私個人の経験、知識、技量の不足が原因であるが、EU内ではワインの価格も安く、また歴史的文化的にもワインが深く人々の生活の中に密着しているということに起因すると思う。

今更議論 することではなく、また当然の話ではあるが、このことは日本人ソムリエだけのワイナリーツアーではあまり感じることのないコンプレックスだと思った。また彼らの多くは国境を超えて活躍の場を求めて おり、当然数カ国語を話すことができ、プレゼンテーション能力も非常に高い人が多い。

私のような底辺を構成するソムリエがもっとレベルアップしなければいけないと強く感じさせられた。とにかく、この日は深い眠りに落ちそうになりながらそのようなことを考えた(ように思う)。
*
最終日は朝からナーエ地区、ディールに向かう。 
マインツからでも30分ほどで到着した。小さいながらも洗練されたワイナリーの建物の印象から、自然とワイン自体への期待も高まった。すぐ裏手の庭に案内され、そこでモーゼル地区へ訪れていたグループと再合流した。 

歴史を感じる 建物と現代風の建物、よく手入れされた芝生の庭でもてなされたゼクトはコメントの必要が無意味なほど 素晴らしかった。ほどなくして始まったティスティング・セミナーで提供されたリースリングは期待通り 垢ぬけた、すっきりとしたワインであった。 スタンダードクラスから格上のものまで総じて品のいい バランスの良いワインが造られていた。

*

ディール訪問が終わると我々を除くすべての参加者が空港に向かった。 我々二人はそこからラッツェンベルガーを訪ねた。 ゲオルグブロイヤーの畑もディールの畑も 足を滑らしそうになるほど勾配がきつく、「手伝ったらしんどいだろうなぁ」と感じていたのだが、 バハラッハ村の入り口あたりから見えた、壁にも見えるぶどう畑をみて絶句した。 (またはぶどう畑に見える「何か別のもの」かとさえ思った) 

近づけば近づくほどそのぶどう畑はまさに 崖そのもので、その時点ではそれがラッツェンベルガーの畑かどうかもわからなかったのだが、ぶどう 栽培の北限に近いところでのワイン造りの厳しさというものを感じた。やがてラッツェンベルガー 氏の案内で、それらの畑がやはり彼の所有する畑であることが分かったのだが、斜面の下から みた畑より、上側から見下ろしたその畑はさらに急な斜面だった。足を踏み入れてみようにも 余りに斜度がきつく、落ちたらケガをしそうな斜面の上では足がすくむ思いだった。

反面、丘の上から見下ろすライン河の美しさは形容しがたいものだった。紀元前からローマ人に よってワインが造られていたというラッツェンベルガー氏の説明には、彼のその村への愛情の深さと 誇るべきバハラッハ村の歴史に対する敬意を含んだものであった(ように思う)。


ティスティングは我々二人だけのために行われた。QBAのクラスから始まったティスティングは さすがにどれも素晴らしいものであったが、ひとつだけ、生意気にも、ラッツェンベルガー氏の考えに 反対の意見を持った。グローセスゲヴェックスのリースリングは06年と08年が供出されたのだが、 氏は06年のほうがテロワールを反映した、より完成に近いものだと言うのだが、私には 08年のもののほうが若いワインらしいしっかりとし酸と高い果実の凝縮感のバランスが「分かり やすい」と感じた。
日本では高価なワインとなるグローセスゲヴェックスをより多くの人に評価 してもらうには若いうちに飲んでしまったほうがいいと、全く素人的なことを申し上げてしまった。
失礼と思いながらも、その考えは訪問以前から変わっていなかったので、申し上げることにした。

夕食は奥様の手料理をお庭で頂戴した。 

1971のシュペートレーゼ・トロッケンから始まったのだが、 これは全く期待もしていなかったサプライズだった。 正直なところガイゼンハイム大学で飲んだ 1946よりも状態も良くうっとりするほどの味わいで、まだまだ若さと気品を感じさせるリースリング の奥行きの深さに驚かされた。その後奥様と二人のお嬢さんが少しだけ顔を見せてくださった。 ラッツェンベルガー氏のご両親も御健在で、お二人も少し前にお顔を見せてくださった。

そういえば、 夕食の最初の71年のリースリングはお父様の作品なのだなぁと気づく、自分の頭の鈍さを恥ずかしく思った。ドイツでも3世代の同居はあまり多くはないらしく、ラッツェンベルガー家は特別だと別のドイツ人からきいた。 造り手の優しさがワインにも滲み出るのかなと思った。

(完)

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関さん、素晴らしいレポートをありがとうございました。
2010年のバイザグラスキャンペーンにおいても、上記のようなドイツ研修ツアーが、優秀店(ドイツ賞)の代表者2名に贈られる予定です。ドイツ研修ツアーを目指して、ぜひ頑張ってください!

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